第9章:意思決定をスマート化する

この章で分かること

  • 「スマート」の中身の定義(あいまい語を禁止)
  • 判断シートに揃える8要素
  • 従来とAI支援後で何が変わる/変わらないか
  • 責任者・承認者をシートに書く理由
  • 会議を短くする進行の型
定義: 判断に必要な事実・選択肢・根拠・反証・リスク・担当者・承認条件・復旧ゴールを同じ場所へ集約し、判断のばらつきと探索時間を減らすこと。
たとえ話

材料が5チャットと3ダッシュボードに散らばっている状態を、1枚の意思決定シートにまとめるイメージです。
決断する人は同じでも、迷う時間が減ります。

1. 判断シートの8要素

1枚に載せるもの
+------------------------------------------+
| 事実(観測)     | 選択肢A/B/C           |
| 根拠 / 反証      | 各選択肢のリスク       |
| 推奨(AI)       | 担当 / 承認者          |
| 復旧ゴール       | 承認条件・期限         |
+------------------------------------------+
  1. 事実を先に固定する(推測と混ぜない)
  2. 選択肢を2〜3本並べる(「何もしない」も選択肢)
  3. 各選択肢の根拠と反証を書く
  4. 影響範囲・可逆性・データ破壊の観点でリスクを付ける
  5. 実行者と承認者を名前で書く
  6. 復旧ゴール(測れる条件)を共有する
  7. 期限とエスカレ条件を書く
  8. 決めたら実行結果を同じシートに追記する

2. 従来 vs AI支援

観点従来AI支援後変わらないこと
情報収集画面を何枚も手動関連を自動収集権限外は見られない
時系列人が並べる自動整列時刻同期の品質依存
原因候補ベテラン記憶複数仮説最終採択は人
反証見落としやすい習慣として強制しやすい見ない選択もできてしまう
手順文書探し適合箇所提示古い手順のリスク
担当人脈頼みルールと資産情報から候補オーナー未定義なら困る
報告後回し草案と途中更新事実確認は人
最終判断人間人間責任は移動しない

3. 15分意思決定ミーティングの型

タイムボックス
0-3分  事実の読み合わせ(推測は後回し)
3-8分  選択肢と比較(リスク付き)
8-12分 決定と承認の要否確認
12-15分 次アクション・期限・エスカレ条件
AIの推奨を議長がそのまま採用すると、責任が曖昧になります。推奨は「提案」、決定欄は必ず人が書く。
運用担当者インシデント票を8要素テンプレ化する
PG修正案ごとの副作用・戻し方・テスト不足を明記する
SE選択肢ごとの影響範囲・可逆性・承認要否を整理する
PM会議前にシートが埋まっているか確認する
経営層「速い決断」ではなく「根拠が見える決断」を求める

4. 現場適用:意思決定シート記入例

事実: 10:03から注文API 5xxが上昇。10:01に v3.8.2 デプロイ。
選択肢:
  A) 設定差分確認(低リスク)
  B) ロールバック(承認必要、可逆)
  C) 様子見15分(顧客影響が閾値未満なら)
推奨(AI): Aを先行、拡大時B
人間決定: Aを即実施。顧客影響がX%超ならBを申請。
承認者: 運用リーダ
復旧ゴール: 5xxがSLO内、15分再発なし
期限: 11:00までにB要否再判定

この書き方ができない会議は、情報収集に戻ります(第8章)。

ふりかえり

  • 自チームのインシデント票に8要素が揃うか
  • 責任者欄が「AI」「みんな」になっていないか
  • 「何もしない」選択肢を検討したことがあるか