第8章:AIによる初動支援

この章で分かること

  • 初動でAIに頼む順番(何を先に、何を後に)
  • 自由文ではなく「型」で出力させる理由と必須項目
  • 事実/推測/反証/不足情報の分け方
  • 復旧ゴールとエスカレーションを初動から書く意味
  • 人が最終判断するときのチェックポイント
たとえ話

救急外来のトリアージシートです。
「バイタル・疑っている病名・まだ測っていない検査・次の診療科」を同じ紙に書くと、引き継ぎが速くなります。
AI初動支援の価値は診断の断定ではなく、シートをその場で埋めることです。

AI は材料を揃え、人間 はやる/やらない/誰に渡すを決める。
AIの文章をそのまま「原因確定」にしないことが、この章の最低ルールです。

1. 初動の流れ(9ステップ)

初動パイプライン
[既存監視が検知] → 起票
        ↓
1 情報収集 → 2 時系列 → 3 影響範囲
        ↓
4 仮説 → 5 反証 → 6 不足情報
        ↓
7 次の確認 → 8 復旧ゴール → 9 エスカレ候補
        ↓
   人間が判断・承認・実行
  1. 情報収集 … ログ/メトリクス/トレース/直前の変更・デプロイを、権限の範囲で集める
  2. 時系列 … 「いつから変か」を一分単位で並べる(デプロイ直後かが鍵)
  3. 影響範囲 … ユーザー影響・対象サービス・地域・テナント
  4. 仮説 … 複数本。1本だけ出させない
  5. 反証 … 各仮説に「これを満たせば否定できる」材料
  6. 不足情報 … まだ見ていないが必要そうな指標・ログ
  7. 次の確認 … 誰が何を何分で見るか
  8. 復旧ゴール … いつ「終わった」と言えるか
  9. エスカレーション候補 … 条件付きで次の窓口(条件の型は公式の実践例も参考になる [S19]

2. 出力の型(必須項目つき)

incident_summary:
  current_status / user_impact / started_at / severity
facts:                 # 観測できたことだけ
hypotheses:            # cause / confidence / support / contradict / verification
missing_information:
next_actions:          # action / owner / risk / requires_approval
escalation:            # level / next / condition
recovery_goal:         # 測れる条件で書く
区分書いてよいもの書いてはいけないもの
事実ログ件数、デプロイ時刻、メトリクス値「きっとDBが原因」
推測仮説とその信頼度根拠なしの断定
次アクション確認作業、承認付きロールバック案無承認の本番破壊操作

3. 人が見るチェックリスト(初動2分)

見る

  • 事実と推測が分かれているか
  • 反証が空欄になっていないか
  • 復旧ゴールが測れる表現か

止める

  • 「原因はこれ」だけの出力
  • 承認なし本番操作の提案を即実行
  • 不足情報を無視して深掘りだけ続ける
運用担当者初動テンプレをインシデントツールの必須項目にする
PGverificationを再現手順・確認コマンドへ落とす
SEverificationを担当分界とエスカレーション条件に接続する
PM復旧ゴールを先に共有すると会議が短い
経営層「AIが原因特定」ではなく「初動の迷いが減った」を成果にする

よくある失敗

仮説が1本だけ

常に2本以上と反証を要求する。

ゴール無しで調査地獄

先に復旧ゴールを書く。

4. 現場適用:初動15分の台本

AI成果物
0-2SEVと影響を仮置き証拠収集開始status仮
2-7事実の読み合わせ時系列と仮説2本+facts/hypotheses
7-12反証と不足情報の確認次アクション草案missing/next
12-15復旧ゴールと承認要否エスカレ条件照合goal/escalation
エスカレーション条件は「なんとなく上に上げる」ではなく、時間・影響・手詰まりなど事前に書いた条件で渡します [S19]
15分で原因が分からなくてよい。分かることと、次の確認だけ決まれば合格です。

ふりかえり

  • 最後のインシデントで「事実」と「推測」が混ざっていなかったか
  • 復旧ゴールを最初に書けたか
  • 次アクションに担当と承認要否があったか